活動報告

「無線電話の父」鳥潟右一博士の生家(大館市立鳥潟会館)において、
「平磯無線」の開設100周年等を記念するアマチュア無線局を公開運用

〜世界初の無線電話実用化などの偉業を出身地の市民にアピール〜

2015年4月30日

●はじめに

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の職員有志らによって構成される「無線通信研究アニバーサリーアマチュア無線記念局リレー実行委員会」は、我が国の無線通信の研究の歴史を振り返り広く紹介することを目的とするアマチュア無線記念局を、2014年から開設・運用しています。その一つとして昨年12月1日に、NICT平磯太陽観測施設(通称「平磯無線」:旧逓信省電気試験所平磯出張所、茨城県ひたちなか市)の開設100周年などを記念するアマチュア無線局(コールサイン8N100ICT)を開局しました。同局は普段、NICTの本部(東京都小金井市)において職員の余暇時間に運用されているほか、休日には無線通信研究の歴史にゆかりのある場所に移動して運用し、その場所の歴史的意義を広く紹介しています。

その活動の一環として、去る4月14、15両日に、秋田県大館市花岡町根井下156にある鳥潟家の旧宅において、移動運用を行いました。鳥潟家は、旧花岡村に江戸時代から続く名家で、明治から昭和期にかけて日本の外科医学界の発展に貢献した鳥潟隆三医学博士や、幕末から明治期にかけて軽業師として世界で活躍した鳥潟小三吉氏らを輩出しています。現存する鳥潟家の旧宅は、大館市立の会館として市民に開放されており、建造物が秋田県指定有形文化財に、庭園が秋田県指定名勝(記念物)に、それぞれ指定されています。

同家出身の一人である鳥潟右一工学博士(1883年生〜1923年歿)は、NICTなどの前身である逓信省電気試験所の所長を歴任し、鉱石検波器の研究や、世界初の実用無線電話であるTYK式無線電話機の開発を手がけ、我が国の無線通信草創期の技術者として活躍しました。同博士は、100年前の平磯無線の開設に当たって、場所の選定や地元との交渉を主導しています。

●鳥潟会館における公開運用実施までの経緯

上述の通り平磯無線とゆかりの深い鳥潟右一博士の生家における8N100ICTの移動運用は、実行委員会にとって開局当初からの念願でしたが、これまで実施する機会に恵まれませんでした。そのところに、昨年12月に同局が公開運用を行った「TYK式無線電話運用開始100周年記念資料展」(三重県鳥羽市立図書館)を主催した、「東海無線会」 のメンバーから、鳥潟会館において8N100ICTを移動運用したい旨の申し出が、今年3月末に実行委員会に対してありました。東海無線会は、昨年のTYK式無線電話運用開始100周年に当たって資料収集・調査を行い、その成果を記念誌としてまとめ、今年3月末に上梓した同誌を、鳥潟家ゆかりの大館市に献本する機会を窺っていたものです。

その申し出を、記念局実行委員会は千載一遇の機会と捉え、鳥潟会館を管理する市立大館郷土博物館に直ちに相談した結果、移動運用の受け入れを快諾いただいたのみならず、同館との共催による公開行事と位置づけ、多くの便宜を図っていただけることになりました。そこで記念局実行委員会は、東海無線会のメンバーを中心とする岐阜県在住の3人のアマチュア無線家に、実行委員会のメンバーに加わっていただき、鳥潟会館での8N100ICTの移動運用をお願いしました。

※東海無線会は、東海地域のNTTおよびNTTドコモの無線関係OB・現役を中心としたメンバーにより構成され、無線史の発掘・資料収集等の活動を行っています。

●移動運用の模様

運用者の3人は、1台の車両に乗り込み、岐阜から福井県敦賀市まで陸路を移動し、敦賀港からフェリーで4月14日未明に秋田港に到着しました。一行は同日午前9時頃に目的地の鳥潟会館(写真1)に到着し、会館と道を隔てた向かい側の駐車場(鳥潟会館と市立花岡小学校の共同駐車場)を運用場所に定め、さっそくアンテナを展開して(写真2)、HF帯(3.5、7、10MHz帯のSSB及びCW)で運用を開始しました(写真3)。運用を開始して間もなく、鳥潟右一博士の出身校である市立花岡小学校の2年生1クラスの児童が特別授業で見学に来場しました。また地元の新聞社並びにケーブルテレビ局の取材を相次いで受け、3人のメンバーは、無線運用と見学対応そして取材対応で、フル回転の状況となりました。

写真1 公開運用場所の鳥潟会館写真2 鳥潟会館前の駐車場に車両を停め、HFアンテナを展開写真3 車内での運用の模様

記念局運用に並行して、鳥潟会館内の和室では、鳥潟右一博士の業績や平磯無線に関する資料・ポスターの展示を実施しました(写真4)。資料展示は、当初は移動運用中の2日間だけの予定でしたが、好評につき週末まで引き続き展示することになりました。

2日目の4月15日は、午前10時から約1時間に渡り、運用メンバーの一人である東海無線会の中嶋奨氏によるミニ講話が、会館内で開催されました(写真5)。事前周知期間が短く、しかも平日の開催であったにもかかわらず、13名の熱心な聴講者が集まりました。講話は、鳥潟右一博士と平磯無線のつながりから、電信、電話、情報化社会、現在のインターネットからさらに使い易い身近な新たなインターネット、また電波適性利用推進のPRまで、多方面に渡り、好評でした。

講話に先立ち、TYK式無線電話運用開始100周年記念誌を、大館郷土博物館の若宮司館長、及び北秋田市在住の郷土史家・中嶋忠輝氏に贈呈し(写真6)、東海無線会メンバー来館の所期の目的を果たしました。

写真4 鳥潟会館内の和室における展示写真5 中嶋奨氏によるミニ講話写真6 TYK式無線電話運用開始100周年記念誌を大館郷土博物館長及び郷土史家に贈呈

15日の無線局運用終了間際に、近隣にある秋田県立大館工業高校の無線部(コールサインJA7YBF)の顧問の先生および生徒3人が見学に訪れ、若い世代にも同地出身の無線の大先輩の偉業を紹介しました。

平日にもかかわらず、鳥潟会館には2日間で49人の来場者(但し駐車場の無線局だけ見学して帰った人の数は含まず)と、北海道から沖縄まで388局との交信ができました。

鳥潟会館での運用を終えた一行は、岐阜への陸路での帰途においても、8N100ICTを運用し、各地の局にサービスしました。

●おわりに

今回は、発案から実施までの準備期間が非常に短かったにもかかわらず、大館郷土博物館側の迅速な受け入れ対応も相まって、実りの多い公開運用となりました。鳥潟会館は、来年に県有形文化財指定5周年を迎え、また記念局実行委員会も来年は無線120周年の新たな記念局の開局を計画していることから、この2つの節目を連携して、講演会や科学技術教室などの市民向けイベントを大館市で企画する方向で、今後協議していく予定です。

最後に、本運用の実施に当たっては、東海無線会の中嶋奨氏、松岡直人氏、及び田中弘氏のボランタリーな活動に負うところが多く、また受け入れに当たっては、大館郷土博物館の鳥潟幸男学芸員に多大なお世話になりました。ここに感謝申し上げます。

(文責 JF3CGN)

【予告アナウンス】 【報道】

大館ケーブルテレビ 「ケーブル情報局 Oh! date」 2015年4月21日〜30日放送

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