活動報告と予告
アマチュア無線記念局8N100ICTの最近の活動〜科学イベントや市民向け公開行事で無線通信の歴史をアピール〜 |
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の職員有志らによって構成される、「無線通信研究アニバーサリーアマチュア無線記念局リレー実行委員会」は、NICT平磯太陽観測施設開設100周年および標準電波JJY開局75周年などを記念するアマチュア無線局8N100ICTを、昨年12月1日に開局し、活動を続けています。 免許期間(1年間)の後半に入り、無線運用にとどまらず、科学イベントや市民向け公開行事にも積極的に出展し、無線通信の歴史を振り返り広く紹介する活動を続けています。その最近の活動と今後の予定をご紹介します。
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●学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ
7月19日に、宮城県仙台市の東北大学川内北キャンパスにおいて開催された、学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2015に出展し、8N100ICTの公開運用と電波実験が行われました。学都「仙台・宮城」サイエンス・デイは、「科学の”プロセス”を子どもから大人まで五感で感じられる日」をコンセプトに、2007年から毎年7月に開催されている体験型・対話型の科学イベントで、東北大学を始めとする地元の大学・高専・高校・中学校のほか、JAXA角田宇宙センター、理研仙台地区、産総研東北センター、仙台管区気象台などの公的機関や、NTT東日本宮城支店、日本無線などの民間企業も多数出展し、1日で1万人近い来場者を迎えます。今年は40の講座プログラムと49の体験ブースが登場しました。
NICTの有志らは、昨年に同イベントに初出展し、NICT10周年等記念局8J10NICTの公開運用と電波実験を行いました。2回目の出展となる今年は、東北大学学友会アマチュア無線部JA7YAA及びアンリツ厚木アマチュア無線クラブJE1YEMと合同で、体験ブースを構えました。ブースは、JA7YAAのアンテナタワーを借り、屋外のテントで行った8N100ICTの公開運用と、教室における無線通信の歴史紹介ポスター展示及び八木・宇田アンテナから送信される電波による豆電球の点灯実験の、2つのコーナーで構成しました。記念局はJA7YAAの大学生メンバーが中心となって運用し、7、50、144、430MHzの各周波数帯で合計136局と交信しました。
同イベントでは、多数のアワードが用意され、アワードの創設者が優れていると感じた出展に賞を与えて、出展者のインセンティブの向上に資する取り組みが行われています。8N100ICTブースが行った電波実験に対しては、応用物理学会東北支部長賞「シブいで賞」が授与されました。東北大学は世界に誇る日本人の発明「八木・宇田アンテナ」の故郷であり、そのアンテナを使った実験に対して賞が授与されたことは、誠に意義深いものがあります。
【関連情報】テントで行われた記念無線局運用に、多くの人が足を止めていた。 | 平磯無線やJJYなどの無線通信の歴史を紹介するポスターに、来場者の注目が集まった。 |
430MHzの電波を発射中の八木・宇田アンテナに近づけると豆電球が光り、子どもたちはビックリ。 | 8N100ICTの出展が、応用物理学会東北支部長賞「シブいで賞」を受賞。(7月24日に行われた授賞式の模様) |
●NICT未来ICT研究所施設一般公開
7月25日に神戸市西区岩岡町のNICT未来ICT研究所において開催された施設一般公開において、8N100ICTの公開運用とポスター展示が行われました。昨年にも同イベントにおいてNICT10周年等記念局8J10NICTの公開運用が行われ、今回が2局目の運用となりました。隣接して出展していた近畿総合通信局のブースの説明のために来場していた電波適正利用推進員の人たちが、ゲスト運用者として協力し、7、50、144、430MHzの各周波数帯で合計74局と交信しました。また、平磯無線やJJYの歴史、旧NASDA小平分室の衛星試験棟・電波無反射室や、NICT鹿島宇宙技術センターのBS・CSパラボラアンテナなど、無線通信の歴史を振り返り、NICTからまもなく姿を消す技術遺産を広く紹介するポスターも多数展示され、特に年配の来場者の注目を集めていました。
【関連情報】無線通信の歴史を紹介するポスターに見入る来場者ら。 | 8N100ICTを運用する実行委員会滝澤代表。 |
●明石市立天文科学館公開運用
NICT未来ICT研究所施設一般公開に続いて、翌日の7月26日には、兵庫県明石市の明石市立天文科学館においても、8N100ICTの公開運用とポスター展示が行われました。同館は、日本標準時の天文基準となる子午線(東経135度)の上に設置されており、日本標準時の供給手段の一つである標準電波JJYの75周年等の記念局を公開運用するのにふさわしい場所として、施設運営者のご理解・ご協力を得て、実現したものです。当日は展示室の屋上にある「日時計広場」の脇にアンテナを仮設し、公開運用の予告を聞いて駆けつけた地元の熱心な無線家によりゲスト運用が行われ、7、50、144、430MHzの各周波数帯で合計94局と交信しました。標準電波の役割とJJYの歴史などを紹介するポスター展示も合わせて行われました。夏休み最初の日曜日とあって、多数の親子連れが来館していました。
【関連情報】展示室の屋上・プラネタリウムの脇に仮設したアンテナ。 | スポラディックE層が出現し、50MHz帯で北海道や台湾との遠距離交信に成功した。 |
●平磯〜大洗間で、100年ぶりの同時送受話無線再現実験
記念局実行委員会は、東京電機大学中学校・高等学校無線部(JA1YQZ、東京都小金井市)との夏休み合同活動として、8月18日にNICT平磯太陽観測施設(茨城県ひたちなか市)、翌19日にNICT鹿島宇宙技術センター(茨城県鹿嶋市)から、8N100ICTの運用を行いました。その際に、8月18日には、平磯太陽観測施設(旧・逓信省電気試験所平磯分室)と、約6km離れた東茨城郡大洗町にある茨城県立児童センターこどもの城(逓信省電気試験所磯浜分室跡地)との間で、144MHzと430MHzの2つのアマチュア無線周波数を使った「同時送受話無線」(全二重無線電話: full-duplex radiotelephone)の実験を行いました。
同時送受話無線は、今日の携帯電話のように、相手と自分が同時に聞き話すことのできる無線方式で、電波の送信と受信を同時に行うため、明治・大正時代の初期の無線技術では、自分の送信した電波が受信に妨害を与えてしまうなどの問題があり、実現が困難でした。逓信省電気試験所は、2つの周波数に共振する特殊なアンテナを設計し、1本のアンテナで異なる周波数の電波の送信と受信を同時に行える方式を開発し、1917年(大正6年)に、平磯分室〜磯浜分室の約6kmの距離での同時送受話無線電話の実験に、初めて成功しました。無線における同時送受話が実現したことにより、もともと同時送受話方式であった固定電話との相互接続が初めて可能になり、船舶上の無線電話と陸上の固定電話とを結ぶ通話が1918年(大正7年)に公開実験されました。これと同じ技術を米国の電話会社AT&Tが3年後に特許出願したものの日本が先行していて特許が認められなかったことから、わが国の同時送受話無線実験が世界初の成功であったことが証明されています。この成功により、専門のオペレータにしか扱えなかった無線電話が、一般市民でも利用できる技術に大きく進化したわけであり、携帯電話に代表されるモバイル通信の歴史は、茨城県の平磯〜大洗間から始まったと言っても過言ではありません。
その史実を記念し、東京電機大学中学校・高等学校無線部の部員と、記念局実行委員会メンバーとが、100年前の実験成功時の送受信場所にそれぞれ配置し、アマチュア無線の電波で両者を結び、同時送受話無線による再現実験を行ったものです。電波法の制約があるため、今回行った実験は、使用している周波数やアンテナの方式などが100年前とは異なり、従って完全な再現とはいえませんが、100年前と全く同じ場所において、現在は携帯電話の基本技術として世界中に普及している同時送受話無線の実験を、中高生らに体験してもらうことにより、先人の偉業への理解と、次世代の技術者育成に寄与できたと考えています。
【関連情報】●秋以降も続く記念局活動
記念局実行委員会は、8月22、23両日のハムフェア2015(東京都江東区・東京ビッグサイト)への出展を始め、9月から11月にかけて以下の科学イベントに出展し、8N100ICTの公開運用に加え、無線通信の歴史を紹介する展示や、電波を使った科学実験など披露する予定です。
特に10月31日と11月1日に茨城県ひたちなか市で開催される「青少年のための科学の祭典ひたちなか大会」は、市内にあるNICT平磯太陽観測施設の100周年にちなんで今年のメインテーマが「電波と無線を学ぼう」となっており、地元のJARL勝田クラブ各局のご協力により8N100ICTを公開運用するほか、地元の学校・企業による電波や無線に関する出展や科学実験が、多数予定されています。
記念局実行委員会は、8N100ICTが閉局する11月30日まで、無線通信の歴史を振り返り広く紹介するとともに、青少年への電波・無線技術の紹介を通じて、次世代の技術者の育成に寄与する活動を続けていきます。
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