おしらせ

「無線電話の父」鳥潟右一博士が開設した「平磯無線」(逓信省電気試験所平磯出張所)の100周年等を記念するアマチュア無線局を、大館市立鳥潟会館において公開運用します

2015年4月9日公表
2015年4月10日資料追加

秋田県の花岡村(現・大館市)の出身で、現在の国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、東京都小金井市)などの前身である「逓信省電気試験所」の所長を歴任した鳥潟右一博士(1883年生〜1923年歿)【リンク:Wikipedia】は、我が国における初めての本格的な無線通信研究の拠点として、1915年(大正4年)に、現在の茨城県ひたちなか市に「平磯出張所」(現・NICT平磯太陽観測施設)を開設しました。今年、同施設が100周年を迎えたことなどを記念して、NICTの職員有志らによって期間限定で開局しているアマチュア無線記念局(コールサイン8N100ICT)が、来たる4月14日(火)、15日(水)の2日間限定で、大館市立鳥潟会館(秋田県大館市花岡町根井下156)【リンク:同館Webサイト】に移動・仮設し、地元・全国・全世界のアマチュア無線家に向けて、無線通信研究の歴史と鳥潟家の由緒ある地を紹介するための無線交信サービスを行いますので、お知らせいたします。

●平磯無線(逓信省電気試験所平磯出張所)について

携帯電話、スマホ、Wi-Fiなど、日常生活にとってますます不可欠になっている無線技術(ワイヤレス)は、およそ120年前の1895年にイタリアのマルコーニが初めて実用化に成功し、我が国ではその翌年の1896年(明治29年)から逓信省電気試験所において実験研究が始まりました。1904年(明治37年)に勃発した日露戦争において、無線電信機を載せた日本の戦艦が日本海海戦で勝利したことなどを契機に、無線技術の実用化が加速しました。

その無線技術の研究は、当初は東京の市街地にあった逓信省電気試験所の本部で行われていましたが、太平洋をまたぐ長距離無線通信の研究を本格化するために、より広い敷地を求めて、1915年(大正4年)に、当時の同試験所第四部(無線電信電話)の鳥潟右一部長が自ら踏査して、現在の茨城県ひたちなか市に敷地を選定し、無線技術専門の研究拠点「平磯出張所」(通称「平磯無線」)が設けられました。そのことから平磯無線は、「無線通信研究の故郷」あるいは「電波研究の本当の意味での発祥の地」と言われています。

発足当初の平磯無線では、鳥潟右一部長の部下で、TYK式無線電話機(世界初の実用無線電話)を共同で開発した北村政次郎が初代所長に就任し、アメリカで発明されたばかりの真空管を使用した無線装置の設計・開発に、いち早く着手しました。特にモールス符号(トンツー)でなく音声を直接電波に載せて送る「無線電話」の研究において世界的な成果を出しました。例えば、トランシーバのように送話と受話を交互に行うのでなく、現在の携帯電話と同じく送話と受話が同時にできる無線方式や、無線電話装置を電話交換機に接続して、現在の携帯電話〜固定電話間と同じように有線と無線の相互接続通話を可能にするなど、今日では当たり前になっている電話技術は、世界に先駆けて平磯無線において開発されたものです。これらの成果によってTYK式無線電話機が改良され、無線電話が世の中に広く普及することとなりました。また、1925年(大正14年)に東京・愛宕山のJOAKによってラジオの本放送が始まる準備としての調査・試験が、平磯無線で数多く行われ、米国のラジオ放送の長距離受信に初めて成功したほか、後に「5球スーパー」の名で広く普及することになる、スーパーヘテロダイン式ラジオ受信機の試作を、平磯無線が日本で初めて行いました。【関連情報:ラジオ放送黎明期における平磯無線の活躍 〜ラジオ放送開始90周年記念日に寄せて〜】

平磯無線はその後も、短波帯の電波の伝わり方の研究、電波状態の乱れによる無線通信への影響を予測・周知する電波警報業務、そして電波状態の乱れの原因の多くを占める太陽活動の観測へと、今日まで一貫して電波・無線技術に関する世界的な研究・観測拠点として活動しています。特に昭和30年代には、東京大学の糸川英夫教授らのグループと共同で、秋田県の道川海岸におけるロケット打ち上げ実験に参加し、上空にある電波の反射層(電離層)の観測を繰り返し行うなど、我が国の宇宙開発の黎明期にも、平磯無線が大きく関わっています。

逓信省電気試験所は、終戦直後の省庁組織改革により、現在のNICTのほか、国立研究開発法人産業技術総合研究所(茨城県つくば市)、NTT研究開発センタ、KDDI研究所などに分割されましたが、これらの後身組織は、時代の要請や運営母体の変遷により、逓信省電気試験所時代の敷地や施設を、今日ではほとんど残していません。NICTに継承された平磯無線は、平磯太陽観測施設として現在も稼動しており、逓信省電気試験所の拠点の中で、開設当時から場所を変えることなく後身の研究機関に引き継がれて、鳥潟右一部長の時代から今日まで100年間、研究用途で存続している、唯一・最後の貴重な施設となっています。

昭和初期の平磯無線現在の平磯無線(NICT平磯太陽観測施設)

●鳥潟会館における平磯無線100周年等アマチュア無線記念局8N100ICTの公開運用について

アマチュア無線局には、アマチュア無線技士の資格を持つ者が集まって合同で開設する「社団局」があり、その一種として、特別な行事の際にのみ、総務省から期間限定で免許を受けて開設する「記念局」があります。期間限定の記念局は、特別なコールサインを使い、交信相手に対して特別な交信証(QSLカード)を発行するため、全国・全世界のアマチュア無線家たちから交信希望が殺到し、交信を通じて記念行事を広くアピールする役割を果たします。

アマチュア無線技士の資格を持つNICTの職員有志らは、NICTの賛同を得て昨年12月1日に、平磯無線100周年などを記念するアマチュア無線局(コールサイン8N100ICT)を開局し、普段はNICTの本部(東京都小金井市)において業務の合間に全国や全世界と交信しているほか、これまでに、NICT平磯太陽観測施設での移動運用や、三重県鳥羽市立図書館におけるTYK式無線電話運用開始100周年記念資料展における公開運用【リンク:運用報告】などを行ってきました。

世界初の実用無線電話(TYK式無線電話機)運用開始100周年記念資料展(鳥羽市立図書館)における運用記念局実行委員会による市民向け科学イベントへの出展(青少年のための科学の祭典)

このほど、東北地方における初めての8N100ICTの公開運用として、鳥潟右一博士の旧宅であった鳥潟会館(秋田県大館市花岡町根井下156)【リンク:鳥潟会館Webサイト】での運用を企画いたしました。鳥潟会館は、旧花岡村に江戸時代から続く鳥潟家の邸宅で、現在は大館市立の施設として公開されており、建造物が秋田県指定有形文化財に、庭園が秋田県指定名勝(記念物)に、それぞれ指定されています。

今回の鳥潟会館での公開運用は、鳥潟会館を管理している市立大館郷土博物館【リンク:大館郷土博物館Webサイト】との共催行事として、上述のTYK式無線電話運用開始100周年記念資料展を開催した、「東海無線会」の分科会「無線史研究会」の有志のご協力により実施いたします。同会は、NTTおよびNTTドコモの無線関係OB・現役を中心としたメンバーにより構成され、東海地域における無線史の発掘・資料収集等を行っています。

 
大館市立鳥潟会館における平磯無線100周年等アマチュア無線記念局8N100ICTの公開運用のご案内
公開運用日時2015年4月14日(火)午後〜夕方、15日(水)午前〜昼
(無線設備の設置調整に要する時間により、運用時間は前後する場合があります)
公開運用場所大館市立鳥潟会館(秋田県大館市花岡町根井下156)【リンク:鳥潟会館Webサイト】
運用予定周波数帯・モード7及び10MHz帯、SSB及びCW
共催大館市立大館郷土博物館【リンク:大館郷土博物館Webサイトでのご案内】
当日は公開運用のほか、平磯無線や鳥潟右一博士の功績に関する資料の展示も行います。また15日(水)10:00〜10:30に、鳥潟右一博士およびTYK式無線電話機に関するミニ講話を予定しております。

会場に展示する説明ポスター(PDF)

会場で配布するリーフレット(PDF)


●参考資料

逓信省電気試験所 大正3年度事務報告 (平磯出張所の開設に関する鳥潟右一部長の報告)

逓信省電気試験所 大正3年度事務報告 (平磯出張所の開設に関する鳥潟右一部長の報告:赤点線枠内)

平磯無線の組織変遷とTYK


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