活動報告
情報通信研究機構(NICT)の国立研究開発法人化をPRするアマチュア無線記念局を運用〜次世代の無線技術者育成を目指して〜 |
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の平磯太陽観測施設(旧逓信省電気試験所平磯出張所、茨城県ひたちなか市)の開設100周年および標準電波JJYの開局75周年などを記念するアマチュア無線局(コールサイン8N100ICT)は、3月15日に、NICT本部構内に現存する旧・宇宙開発事業団衛星試験庁舎において、東京電機大学中学校・高等学校および同大学理工学部の無線部員らを招いて、NICTが4月1日に国立研究開発法人に移行することをPRする無線運用を行いました。 |
NICTの職員有志らによって構成される「無線通信研究アニバーサリーアマチュア無線記念局リレー実行委員会」は、我が国の無線通信の研究の歴史を振り返り広く紹介することを目的とするアマチュア無線記念局を、2014年から開設・運用しています。その一つとして、昨年12月1日に8N100ICTを開局しました。同局は普段、NICTの本部(東京都小金井市)において職員の余暇時間に運用されているほか、休日には無線通信研究の歴史にとってゆかりのある場所に移動運用し、その場所の歴史的意義を広く紹介しています。さらにこの記念局では、無線技術に興味を持つ青少年の育成にも力を入れています。
去る3月15日に、NICT本部の北側敷地(東京都小平市)に現存している、旧・宇宙開発事業団(NASDA: 現在のJAXAの前身の一つ)が使用していた衛星試験庁舎の中から、8N100ICTを運用しました。同庁舎は、筑波宇宙センターが本格稼働するまでの1970年代に、NASDAの最初の人工衛星や、日本初の実用衛星などのプロトタイプモデルを試験し、我が国の国産実用衛星の誕生に深くかかわった、由緒ある施設です。
当日は、NICTの職員のほか、アンリツ(株)無線部(神奈川県厚木市、コールサインJE1YEM)、東京電機大学中学校・高等学校無線部(東京都小金井市、コールサインJA1YQZ)、および同大学理工学部ハムクラブ(埼玉県比企郡鳩山町、コールサインJN1YYG)の部員も多数参加しました。参加した学生・生徒たちのほとんどが第4級アマチュア無線技士(4アマ)のため、各クラブ局の4アマ用の無線機を持参して、記念局の他にそれぞれのクラブ局のコールサインでも並行して運用しました。
当日は、旧衛星試験庁舎前の駐車場にアンテナマストを仮設し、7MHzから430MHzまでの各周波数帯で運用しました。短波の伝搬状態は良好で、中高生たちはJA1YQZの10W機(FT-450DS)を使い、アンリツ無線部員らの指導を受けながら21MHzで中国(上海の中学校)や香港など海外の局とのコンタクトに成功し、初めての英語での交信に自信をつけた様子でした。またFT-817ND(5W機)により7MHzで8N100ICTがCQを出すと、北海道から九州まで全ての総通局エリアから応答が殺到(パイルアップ)し、初めての経験に最初は戸惑っていた中高生たちも、2時間以上も途切れず呼ばれ続けているうちに、すっかり要領よくさばけるように成長していました。またV/UHF帯では、運用予告を聞いて待ち構えていた小平市をはじめ近隣の無線家たちから多数の応答があり、2台のFT-817NDを駆使して、8N100ICTとJN1YYGの両方で交互にサービスしました。
今回の運用の主目的であったNICTの国立研究開発法人化PRに関しては、相手局から「情報通信研究機構という名前は変わらないのですか」といった質問が寄せられ、宇宙天気予報などで知られるNICTの動向に対するアマチュア無線家の関心の高さを、改めて感じました。
旧衛星試験庁舎前の駐車場に勢揃いした無線アンテナ | ベテラン部員の指導を受けて海外との英語交信に挑戦する中学生たち | NICT職員によるCW(電信)の運用 |
今回集まった中高生たちの多くは、小型のハンディトランシーバは持っているものの、4アマの資格を取る際にアンテナに指向性があることを勉強したくらいで、実際にそれを体験した子はそれほど多くありません。そこで、アンリツ無線部のメンバーのご協力で、運用場所の旧衛星試験庁舎に現存する電波無反射室を活用して、簡単な八木・宇田アンテナの製作と、自分で作ったアンテナの指向性測定体験を企画しました。この電波無反射室は、人工衛星搭載アンテナの開発及び試験に用いるために、八木・宇田アンテナの発明者のひとり、宇田新太郎博士のご子息の主導により40数年前に建てられた由緒ある施設であり、そこを使って子供たちの手作り八木・宇田アンテナを測定するとは、感慨深いものがあります。
製作するアンテナは、無線局運用の合間に作れるように、工具不要で30分でできる簡単なものです。”測定”というと、なにやらムズカシそうなので、果たして子供たちが興味を持ってくれるか心配でしたが、声を掛けるとすぐに「やる!」との積極的な返事があり、すぐに製作が始まりました。
出来上がったアンテナはすぐに電波無反射室に持ち込んで測定です。電波吸収体の不思議な幾何学模様に囲まれた大きな部屋ではしゃぐ子供たちの姿は、とても印象的でした。測定では、アンテナの方向を変えながらスペアナの画面を読むのですが、やはり若い子の呑み込みは早く、使い方を一度教えるとすぐに自分で測定し始めたのには驚かされました。生徒の一人は、手持ちのハンディ機(VX-8D)のホイップアンテナを自作アンテナに交換し、東京都多摩市内の局との交信に成功していました。
より良い性能を追求して、自作アンテナを調整して再測定したり、素子の本数を追加して試したりと、積極的な子が多く、準備した実行委員会にとっても、やりがいのある一日となりました。
生徒たちが鉄線・割り箸・クリップで自作した430MHz用八木・宇田アンテナ | 初めて見る電波吸収体に見入る生徒たち | |
自作したアンテナをローテーターで回し、電界強度の変化を記録 | 自作したアンテナで交信する生徒 |
生徒たちを引率して一緒に運用に参加した、東京電機大学中学校の古城仁教頭(第2級アマチュア無線技士)は、「中学生は多方面の経験を積むことで、自信を持って生活できることがとても大切と感じています。高校生は周りとの協調性を育てながら、自分の得意分野を開拓していってほしいと願っています。」と感想を述べています。
来たるべきIoT社会では、さまざまなものがネットワークに接続されますが、接続では無線が多用されます。今よりたくさんの電波が飛び交う未来では、電波の性質を良く知っている人の重要性はいっそう高まるでしょう。そう考えたとき、今回のように子供たちが無線に興味を持ってくれたことを、大変心強く感じました。
当実行委員会は今後も、無線通信の研究の歴史を振り返りながら、人材育成にも寄与する未来志向の活動を続けていく所存です。
【本イベントの開催案内】国産実用衛星誕生の「ゆりかご」(旧・宇宙開発事業団小平分室)において、情報通信研究機構(NICT)の国立研究開発法人化を紹介するアマチュア無線局を記念運用します
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